領域代表からのご挨拶

「グローバル関係学」プロジェクト、進行中です!

千葉大学 グローバル関係融合研究センター センター長  酒井啓子

SAKAI Keiko 文部科学省科学研究費助成事業「新学術領域研究」『グローバル秩序の溶解と新しい危機を超えて:関係性中心の融合型人文社会科学の確立社会科学の確立』(「グローバル関係学」)は、2018年度の今年、事業開始から3年目を迎えます。5年間の研究事業も、すでに折返し地点を迎えました。
 世界各地での紛争、対立が、情報や思想、モノやカネ、人の移動のグローバル化などの影響を受け、複雑に絡み合う現代のグローバルな危機。この「新しいグローバルな危機」に対応するには、分野横断的な包括的視座をもって分析した研究が必要だと訴えて、「グローバル関係学」は始まりました。わたしたちは、現代のグローバル社会の問題を読み解くには、主体内部の関係性や、さまざまなレベル、規模の主体が相互に関係しあう、その関係性の変化と相互連関性を見ていくことが必要だと、考えています。
 発足からの2年間、本新領域研究が力点をおいて進めてきたのは、「グローバル関係学」に関わる理論や方法論をどのように確立するか、という点です。そのために、総勢30名を超える5つの計画研究、さらに公募研究に集まった研究者たちを一堂に集めて、「グローバル関係学」とは何か、「グローバル関係学」を確立するためにはどうすればよいかを、政治学、経済学、国際関係、文化人類学、歴史学、文学、社会学、農学、情報学と、さまざまな分野で議論を重ねてきました。その試みは、本新領域研究のウェブサイトに新しく設置した「グローバル関係学・オンラインペーパーシリーズ 」のページに、成果を掲載しています。
 「グローバル関係学」が研究事業として、もうひとつ力点を置いているのが、計画研究ごとの研究を越えて、領域全体の討議を行う場です。全員参加の全体研究会では、毎回4~5人の研究者がさまざまな専門分野から研究報告を行っています。そこは、自らの研究の枠を越えて新しいことを学ぶ、領域を超えて議論することの楽しみが溢れており、毎回熱気のある討議が繰り返されました。
 若手研究者を集めて開催された「若手研究者報告会」でも、東京はもちろん関西地域、北海道、さらにはロンドンから、多数の若手研究者が関心を示してくれました。領域外の若手研究者の報告に、領域内の研究代表者、分担者が真剣勝負でコメントを返す。学問とは、このように若者を惹きつけ、若者の弾力的な思考にベテランが刺激されるものなのだなあと、改めて感銘を受けました。
 日本国内だけではありません。シンガポール国立大学との共催を受け、シンガポールで開催した国際会議は、「グローバルな危機」の代表例とも言うべき移民・難民問題を取り上げ、日本やシンガポールのみならずカナダ、イタリアなど各国からの研究者、実務家が結集した、こちらも熱のこもった討議が展開されました。
 この熱を、どう今後につなげていくか。土台はできました。これからはその土台の上で、いかに研究者がそれぞれ、「グローバル関係学」を展開するかです。それは、領域内の研究者だけではありません。今年は公募研究の募集もあります。「グローバル関係学」の視点を取り入れて分析してみよう、という研究者のみなさん、大歓迎です。

(2018.5.30)