研究概要

 本研究の目的は、紛争や内戦などの結果として起こる「国家破綻」の実態、およびその権力の空白に出現する非国家主体やその越境的なネットワークの実態分析を通して、その発生原因、展開過程、国際政治における意味と意義を分析することである。とりわけ、国家破綻の背景にある紛争や内戦が個々の社会的結合や集団間の関係をいかに変質させたかに注目し、難民や「義勇兵」などの越境的な人の流れの実態と発生のメカニズムを検証する。
 従来の国家破綻研究が主に当該国の内政問題を対象にしてきたこと、そして、発生原因よりも類型論を重視する研究がなされてきたことに対して、本研究では国家破綻に伴う非国家主体およびその越境的ネットワークという新たな視角を導入することで、国家と非国家、一国と越境、社会科学と地域研究の対比を超えた総合的な分析手法と方法論の創生を目指す。
 本研究は、①研究分担者・協力者が担当する対象地域を設定し、その上で、②聞き取り調査、文献調査、世論調査を3 つの柱とする同一デザインの調査を実施することで、効率的な共同研究の実施を目指す。
 ①について、中東の事例は末近浩太(レバノン、シリア)、山尾大(イラク)、松本弘(イエメン)、南東欧の事例は久保慶一(バルカン諸国)、アフリカの事例は遠藤貢(ソマリア)が、それぞれ担当する。
 ②について、聞き取り調査と文献調査については、現地経験が豊富な各研究分担者・協力者がこれまで築いてきた個人のネットワークを活かしながら実施していく。世論調査については、紛争や国家破綻状況によって生まれた非国家主体が当該国住民のアイデンティティに与えた影響を解明することを共通の目的とした上で、上記の各国の研究機関と協力するかたちで大規模な調査を実施する。紛争状態にある国でのデータ収集はこれまで極めて困難であり、現地の実態を十分掌握できる調査が行われてこなかったが、代表者・分担者がこれまで確立してきた現地研究機関との密接な研究交流の蓄積により、独自の視点による大規模な世論調査を行うことが可能である。
 これらの調査の成果については、国内研究会の実施を通して研究分担者・協力者とのあいだでの共有(データベースやクロノロジーの整理など)および比較研究(地域研究と社会科学の諸分野間で理論化・一般化の作業)に発展させていく。また、国際学会や海外の研究者との共同企画を通して、プロジェクト外部への発信を行うとともに、国際的水準の専門家からのフィードバックを積極的に得ることで、研究の深化と発展に反映させる。