研究概要

 本計画研究は、国際社会における政治的、経済的地域統合体のさまざまなメカニズムを、単なる国家間統合体とするのではなく、国際機関や市民社会、超国家的ネットワークなどの上位システムを含むグローバル社会における動向と、国家主体内の多様な価値観から成るサブシステムが国家間の地域統合にどのような影響を及しているかを解明することを目的とする。
 1990 年代後半より世界的な潮流となった地域統合の背景に、経済面でのグローバル化や相互依存関係の深化があることは無論だが、加えて地域紛争の解決メカニズムとして地域内の国家間の調整機能が期待された。EU、ASEAN, APEC などさまざまな地域統合体のこうした経済的、政治的統合機能の実態を把握し、その経済的、政治的役割を分析することがまず研究の前提にあるが、それを踏まえて本計画研究では地域統合体を経済的、政治的に通底して分析可能な、新たな分析枠組みを構築することを目指す。そこでは上位システム(マクロ)、国家主体(メソ)、サブシステム(ミクロ)という階層構造が層を超えて影響を与え合うものと考える。同時に、地域横断的なネットワークを形成する犯罪やテロに抗して、地域統合体がいかに反応し、新たな地域安全保障システムを模索するか、国家主体とサブシステムの共振性にも着目する。
 本研究では、地域統合体の持つ階層構造に着目して、(a)経済面(石戸、畑佐が担当)に焦点を、(b)市民社会(鈴木、水島)に焦点を、(c)治安・犯罪面(落合、池田) に焦点を絞った研究という、三つの研究グループによる研究を、相互連関的に遂行する。
 具体的には(a)グループにおいては、ASEANやAPECなどアジアにおける事例を取り上げて経済的ネットワークによる地域統合を扱い、地域経済統合圏の内部、および複数の地域経済統合圏の間での国際経済関係の双方につき、それらの特質を抽出する。また企業データの統計分析および丹念な現地調査を踏まえ、「異質性」の役割を把握する。
 (b)グループにおいては、分担者の鈴木がマレーシア、水島がEU の事例を、いずれも政治学の観点から分析する。特に水島は難民問題、対ロシア緊張関係などの外的要因がEU(地域統合体)および各加盟国(国家主体)にいかなる影響を及ぼしているのかを見る。
 (c)グループでは、落合がアフリカのドラッグ交易ネットワークの解明とそれに対する地域協力システムの有り様を分析し、池田がシリア内戦、イエメン内戦などに関連する中東の地域安全保障システム再編状況を分析する。
 研究方法は、石戸、畑佐は経済学の観点から未上場企業情報、公表企業情報、国連統計局データなど各種経済統計データの収集とデータ解析を、鈴木、水島、池田は政治学の観点から研究対象地域を訪問して政治・社会エリートに対する聞き取り調査と史資料収集を、落合は政治人類学の観点からアフリカ諸国の地域コミュニティ、病院など社会施設への精密な聞き取り調査を行う。