代表者からのメッセージ

 本研究領域では、政治経済的地域統合に関して、関係性、階層性を明示的に考慮した融合科学を構築する、という大きな目標に向かって研究努力を積み重ねてまいります。グローバリゼーションによって、多元的な主体(政治主体、民族、市民社会、企業体など)の活動が相互に「干渉」しあうことが常態となってきています。そこで必要な論理は、自分の属する主体とは異なる論理や価値を持つ他者との関係性をいかにして平和的に構築していくか、ということにならざるを得ません。例えば国家体や民族、企業体が自己の利益極大化を目指す場合、他者を押しのけてまでそれを行うことがマイナスのフィードバックとして跳ね返ってくることは不可避であって、そうならないようにあらかじめ行動していく、ということが21世紀的な自己構築のあり方ではないかと思われます。ところがそうは考えない主体もまた存在しており、すると例えば「他者への配慮(寛容性)は、非寛容な他者に対しても有効な行動規範なのか」といった疑問がただちに生まれてきます。このことに対する答えはもちろん出ておりませんが、研究者としては、戸惑いながらも、地球の諸地域における具体的な事象の整理をまず試みるべきでしょう。そして次に、そのような観察を通じて得られる状況をやや抽象化して捉え、異質な他者間の出会う「場」において起きる「複雑」な関係性の在り様とその帰結を考慮した上で、それでは関係性の改善ということがあり得るのか、ということへの考察が必要になってまいります。さらに視点を広げますと、おそらく西洋の近代化の過程において構築されてきた国家主権や民主政治といった概念を一度相対化して捉え、「政治」「経済」さらには「民族」「宗教」の事象が融合した形で立ち現れる種々の「差異性」を正面からとらえる学問体系が必要になってくると思われます。このような大きな問題意識で、政治経済的地域統合について大胆かつ地道な研究成果を生み出していく所存です。

石戸 光(いしどひかり) 計画研究A02代表者

Ishido Photo
タイのコンケンに所在するMekong Instituteの代表者と(石戸は左)。