研究概要

 本研究の目的は、主体・制度としての領域主権国家が越境的なるもの(運動体、理念、構造的変化)に対しいかなる役割を果たすか、越境的なるものが国家に与える影響と限界について、分析する。すなわち、国家が、非国家主体による越境的なネットワークや、領域内の狭い範囲の社会へと分裂するベクトルに対して、いかにその領域主権国家性の維持を実現するか、また域外の超大国や国際社会からのグローバルな影響、さらに宗教・宗派・民族間の対立など越境的事象の拡散や浸透に対し、いかに防波堤の役割を果たすか、そのメカニズムや成否について、国際関係学、比較政治学、比較歴史分析等の観点より、解明する。
 特に、国家への挑戦が最も先鋭化している地域の事例を取り上げ、中東(イラン、エジプト、トルコ)と南アジア(パキスタン、アフガニスタン)、東南アジア(インドネシア)における領域主権国家の成り立ちや、国家を内部から支える軍・治安組織の役割、国家イデオロギーや一国ナショナリズムを支える共通の歴史認識や、国家を取り巻く域内、国際関係について、個別・比較分析研究を行う。
 研究手法については、データ収集においては地域研究の方法である現地調査の手法を取りつつ、その分析においては政治学、比較歴史分析などの分析枠組を使用する。特に政軍関係、権威主義体制の耐久性といった課題に対して、制度論的分析を分析の主軸に置くが、他方で状況依存的要素を含む歴史的経路分析やイデオロギー分析も取り入れる。
 現地調査においては、現地語資料の現地での収集、研究対象国の研究者との意見・情報交換、分析対象組織、社会に対する聞き取り調査などを主軸にする。特に、領土主権国家を支えるナショナリズムや国民アイデンティティに関して、トルコなどで現地調査機関の協力を仰ぎつつ世論調査を実施する。
 個別の事例研究については、中東について鈴木恵美(エジプト)、岩坂将充(トルコ)、および松永泰行(イラン)が、南アジアについては井上あえか(パキスタン、アフガニスタン)が、東南アジアについては増原綾子(インドネシア)が担当し、代表者の松永泰行が実証分析研究に資する理論的枠組みの構築を行う。