研究概要

 本計画研究は、国家間関係ではカバーできない、地球規模で共有される諸問題と諸現象が増加している現状を踏まえ、それらの動的展開過程を分野横断的に研究し、個々の社会の基層への影響を捉えつつ、グローバルな問題解決アプローチとグローバル・コモンズの創生の可能性を探ることを目的とする。
 21 世紀のグローバル社会は、日常の生活環境、経済活動、情報から思想・信条に至るまで、国民国家の枠組みを超えたグローバルな諸要素の影響を受けており、環境汚染や疫病、食料、テロリズムなど、国家を超えて共有されるリスクの領域が格段に広がっている。こうしたリスクは、便益と同様に、グローバルな経済活動に伴うモノ、カネ、労働力、情報の拡散によって、容易に国境を越えて世界に拡大する。こうしたグローバル・リスクは、国家主体による個別の対応によって解決されるものではなく、国家主体を単位とする従来の国際関係を超えた新たなグローバル・アプローチの確立が喫緊の課題となる。
 本研究は、主権国家と民主主義という現代国際政治において中心的とされてきた規範と対抗規範をめぐる、「文明の衝突」ともみえる議論を整理した上で、そこに新たな規範を掲げて登場した市民レベルの広域ネットワークが、経済のグローバル化と情報技術ネットワークの発達と関わりながら、国家主体に代わりグローバル・リスクにいかに対応してきたのか、グローバル・コモンズ創生の可能性を含めて検証する。また本研究では、人間の生活の最も基層をなす環境、生態系の問題をも実証事例として取り上げ、いかにグローバル・コモンズのジレンマを解消しうるのかを検証する。
 本計画研究においては、国際政治経済からイスラーム社会運動、文明論、市民社会論、文化人類学、環境農学と、極めて幅広い方法論をとるが、規範と制度をめぐる社会科学的アプローチと、グローバル規範の矛盾とグローバル・リスクが集約されて顕在化するアジア・アフリカのミクロな社会動態を調査する地域研究的アプローチを2 つの軸として、研究を展開する。特に、環境農学の専門家を分担者に加え、人文社会科学ではカバーできない、自然環境要因を分析対象とするグローバル・リスクへの対処方法を模索する。
 具体的な研究手法としては、西欧起源の主権国家と民主主義という概念がグローバル規範として確立される歴史的過程と、アジア的民主主義やイスラーム思想などそれへの対抗概念の展開については、国際政治史、社会運動論の手法を、グローバル・コモンズ形成の基盤ともなりうるグローバルな市民社会の形成過程とその成長に伴う新たなグローバル規範の形成については政治学を、経済のグローバル化がグローバル・リスク、グローバル規範の形成、市民社会ネットワークの発展に与える影響については経済学を、グローバルな情報関連技術の拡散がアフリカの社会形態に与える影響については文化人類学を、そして食料安全保障の向上および農村の貧困解消と、脆弱な環境・生態系に対する過剰な負荷、それに関連した農業体系の地域間差については、農学を用いて分析する。