2019年12月6日に西千葉キャンパスけやき会館で開催された「千葉大学グローバルプロミネント研究基幹シンポジウム」(GPシンポジウム)に参加しました。当プロジェクトからは、下記三つの発表を行いました。
フラッシュ発表では、グローバルプロミネント研究基幹がサポートする各研究プロジェクトから、57名の若手研究者及び学生が登壇し、各研究内容の概要を説明しました。
邢暁赫さん(上記写真)は、「『リベラル優生主義』の限界」について研究しており、12月に東北大学で開催された第31回日本生命倫理学会でも同研究の発表を行いました。
ポスター発表では、発表者がポスターを元に研究内容をより詳しく説明しました。
府中明子さん(上記写真)は、「未婚女性の結婚観に関する日中比較」について研究しており、研究のために中国各地に赴きインタビューを実施しています。
邢暁赫さん(前列一番右)が優秀発表賞に選ばれ、徳久剛史学長より表彰状が授与されました。
写真: 左より水島治郎教授(当プロジェクト代表)、邢暁赫さん、川瀬貴之准教授(邢さん指導教員)
千葉大学学内研究推進事業の一環である「リーディング研究育成プログラム」(2016年度-18年度)として採択された本研究プログラム「未来型公正社会研究」が、 3年間の研究推進期間の満了を迎えました。 つきましては、これまでの研究成果と到達点の達成状況について、総括を行いたく存じます。 本研究が追究する「公正」とは、「平等」「正義」を包含しつつ、しかし同時に異質性や多様性を重視した、グローバル社会における新たな秩序を展望する概念です。2015年10月の発足以来、千葉大学「未来型公正社会研究」は、21世紀のグローバル社会における貧困と格差、社会的対立の深化を始めとする現代的な課題を念頭に、「公正社会」を中核テーマとして 学際的な研究プロジェクトを過去3年間にわたり実施し、国際的な共同研究ネットワークを新たに創出し、多くの先端的な研究成果を挙げることに成功してきました。
これまで本研究は、社会科学系複合学部である法政経学部の強みを活かし、法律・政治・経済からなる学際的アプローチに基づき、 国内外の最先端の研究者とネットワークを築きながら21世紀型の「新しい公正」を提示すべく、規範・政策・歴史の分析を進めてきました。 具体的にはすでに5回に及ぶ公正をめぐる連続国際シンポジウム“Chiba Studies on Global Fair Society”を開催し、海外の有力研究者を招聘して議論を重ね、共同研究を積み上げてきました。 特に2016年の移民の国際移動とジェンダーを扱った第1回シンポジウム“Migration, Gender and Labour in East Asia”の各報告は、 その後の綿密な国際共同作業を経て、2018年にReiko Ogawa, L. Chan, Akiko S. Oishi, et al., Gender, Care and Migration in East Asiaとして、 英国のPalgrave Macmillan社より公刊されました。世界的に著名な学術出版社から国際共同研究の成果が刊行され、海外に広く発信されたことは、当研究育成プログラムの研究が 国際的に卓越していることの証左であり、千葉大学人文社会科学分野のグローバルに伍する研究水準を、国内外に高らかに示すものであると自負しています。
以後も、グローバルな不公正と地域統合の関係を問う第2回シンポジウム “Whither the ASEAN Integration: A Focus on its Inclusiveness”、 「公正」の理論的・規範的考察を検討した第3回シンポジウム“Future of Fairness: Comprehensive and Normative Examination”、 「コミュニティの幸福と公正」をテーマとした第4回シンポジウム“Understanding and Promoting Community Well-Being”、グローバル福祉社会を展望する 第5回シンポジウム“Towards a Global Welfare Society: Care, Gender, and Migration in East Asia”と国際シンポジウムを継続して開催し、 その成果はやはり論文刊行、学術雑誌の特集号掲載などを通して発表されました。
本研究は、この3年間で英語圏・中国語圏をはじめ国内外に「公正」をめぐる研究成果を積極的に発信し、最高水準の学術拠点としての千葉大学の存在感を飛躍的に高めることに成功してきたといえます。以下に主要な研究成果物をご紹介します。
本書は東アジア(日本、韓国、台湾、香港)における移民の国際移動とジェンダーを扱った第1回国際シンポジウム“Migration, Gender and Labour in East Asia”を基に、中核推進者の大石亜希子と小川玲子(共に法政策実証班)が編者を務めた論文集です。世界的に著名な学術出版社である、英国のPalgrave Macmillan社より出版されました。 本書の公刊は、本研究育成プログラムが構築を目指してきた、国内外の研究ネットワークがグローバルに機能し、その研究成果を広く社会に還元する仕組みを構築できたことを示したものとなります。
国際的活動と並行し、近代日本を「公正」の観点から批判的に検討する研究会もこの3年間、継続的に開催してきました。その成果として、中核推進者の佐藤健太郎、荻山正浩、山口道弘(いずれも歴史動態班)が編者を務め、学内外11名の研究者の執筆する論文集『公正から問う近代日本史』(吉田書店)を2019年3月に刊行しました。 近現代日本の経済史、政治史を専攻する専門の歴史研究者が集い、現代に至る公正に関する言説を整理してその通時的な状況の変遷について新たな理解を打ち出した書籍となります。
推進責任者の水島治郎(法政策実証班)は2016年、既成政治への不満と「不公正感」が生み出すポピュリズム現象を分析した『ポピュリズムとは何か』(中公新書)を刊行しました。同書は混迷する現代政治を解明した画期的研究として高く評価され、 10刷5万部のベストセラーとなり、また第37回石橋湛山賞を受賞しました。同書は2018年に中国語訳(訳者:林詠純)『民粋時代是邪悪的存在、還是改革的希望?』先覚出版(台北市)としても刊行されました。
この3年間で、シンポジウム開催、招待講演、共著論集の刊行などを通じて研究ネットワークの構築と強化をしてきました。
本研究グループ全体としては、1年目の評価コメントにおいて社会学および社会心理学との連携が弱い点の指摘を受けたことを鑑み、本学所属の社会学者をメンバーに加えると共に数理社会学の専門家を招いて勉強会を開催しました。
各班においては本研究開始時点でのネットワークを基にして、国際シンポジウムの開催や論集刊行を通じて連携を深めてきました。この3年間で拡大したネットワークは以下の通りとなります。
2018年11月6日(火)に、西千葉キャンパス工学系総合研究棟2・コンファレンスルームにて開催された、千葉大学グローバルプロミネント研究基幹シンポジウムと若手研究者によるポスタープレゼンテーションに参加いたしました。 千葉大学では、2016年4月から本学の研究の核となる新規性・独創性を備えた研究を持続的に創出するシステムとして、学長を基幹長とする「グローバルプロミネント研究基幹」を設置しました。未来型公正社会研究もその一つとして採択されています。 今回のシンポジウムでは、グローバルプロミネント研究基幹として採択されているプロジェクト間の研究交流の場となることが目指されました。当日は推進プロジェクトとして選出された各研究グループの口頭発表とポスター発表が行われました。 ポスター発表には本研究プロジェクトの本プログラムRAの府中明子氏と人文社会科学研究科博士課程の中井良太氏が研究発表を行いました。他の研究者と直接話をする機会も持て、充実した学術交流の場に参加することができました。
2018年5月26日(土)に、第十回公正社会研究会を開催しました。今回は「不公平感の構造とその変容-社会調査による検討」というテーマで、立命館大学産業社会学部准教授の金澤悠介氏を招きご報告いただきました。 金沢氏の専門は社会学の中でも、数理社会学と呼ばれる分野であり、これまでSSM(社会階層と社会移動)調査を始めとする大規模社会調査の分析を始め、コモンズやソーシャル・キャピタル論に関する研究をされてきました。 金澤氏の報告は、社会階層研究における「不公平感」に着目し、誰が不公平感を感じているのか、なぜ人々は不公平を感じるのかを格差意識、寛容性、政党支持との関連から考察するものでした。 社会階層研究は、社会学のなかで長く研究蓄積があり、特に2000年以降は格差社会言説の拡大と共に発展してきた研究領域です。海外では「何を」不公平だと考えるのかに関する研究が主流なのに対し、 日本では「誰が」不公平を感じるのかが主に研究されてきたことが紹介されました。 その上で、1995年、2005年、2015年のSSM調査結果を比較すると、1995年と2005年では社会経済的地位が高い者 が不公平感を持っていたものの、2015年には求職中や非正規、無職といった処遇格差の当事者という新たに不公平感を持つ層が出現したことを指摘されました。 さらに2015年調査からは、不公平感には、市場原理が行き届いていないから不公平だと感じる業績主義的な不公平感と、結果の平等が確保されていないから 社会は不公平だと考える平等主義的な不公平感の2種類があることを明らかにし、前者は高学歴者や自民党支持者に多く、後者は2015年に不公平感を持ち始めた層に多いことを示されました。 金澤氏の報告終了後、人びとが何を「正しい」、「公平」だと考えるかを実践的に分析することで規範的な議論では分からないロジックを導き出すことができるかもしれない、 不公平感を感じている非正規の中でも男性非正規と女性パート労働者では政策志向に違いがあるのではないかといったコメントがなされ、活発な質疑応答が行われました。
2016年度から3年間のリーディング研究育成プログラム「未来型公正社会研究」は、このほど千葉大学グローバルプロミネント研究基幹における審査を受け、 次期3年間のプログラム継続が採択されたことにより、2019年4月より「学際的社会科学による未来型公正社会研究(英語名 Chiba Studies on Global Fair Society: A Multidisciplinary Approach) として新たに3年間、研究活動を継続する運びとなりました。 世界的に進行が見られる「分断の深化」と「不公正感の拡大」に対し、これまで3年間の成果を踏まえ、新しい時代の要請に応えるべく、21世紀の新たな理念たる「公正」に関わる諸学問を分野横断的に統合し、 「分断」を克服する「未来型公正社会」のモデルを、日本から世界に発信していくことを目指します。 次の3年では、(1)一層の学際性、分野横断的な発展、(2)現実社会に対する実践的働きかけの強化、(3)海外研究機関との研究交流を通じた、公正研究の国際的拠点の確立に力を入れていく所存です。今後とも変わらぬご支援をよろしくお願い申し上げます。
2016年11月19日(土)に、千葉大学人社研棟1階マルチメディア講義室にて、未来型公正社会研究主催の国際シンポジウムを開催いたしました。 未来型公正社会研究では、“Chiba Studies on Global Fair Society”と題して毎年国際シンポジウムを開催しています。グローバル社会における「21世紀の公正」のあり方とはどのようなものなのかという本プログラムの課題に対し、第二回目にあたる今回の国際シンポジウムではASEAN(東南アジア諸国連合)を取り上げました。
シンポジウムのテーマは、“Whither the ASEAN Integration: A Focus on Inclusiveness”「ASEAN統合と開発-メコン川とミャンマーから考える」であり、西洋諸国とは異なる独自の形で統合を進めるASEANにおける「インクルーシヴネス(Inclusiveness)」、日本語に訳すと「あまねく広がる」、「全員参加型」を重視する社会づくりについて報告がなされました。 基調講演を含めた3つのセッションでは、海外からの招聘ゲスト3名を含む報告者ならびに討論者が登壇し、講演と報告は英語でなされ、日本語への同時通訳も行われました。 会場には、学内からは千葉大学徳久剛史学長、松元亮治理事、法政経学部酒井啓子学部長をはじめ、学外からの参加者を含め70名近い参加者が集い、充実した学術交流の場となりました。
なお、本シンポジウムは科学研究費助成事業新学術領域研究(研究領域提案型)「計画研究A02 政治経済的地域連合(課題番号16H06548 研究代表:石戸光)」「研究計画B03 文明と広域ネットワーク:生態圏から思想、経済、運動のグローバル化まで(課題番号16H06551 研究代表:五十嵐誠一)」と共催し、千葉市教育委員会、千葉県、(公財)ちば国際コンベンションビューローの後援を受けて開催しました。
シンポジウムには、徳久剛史学長にもご来場いただき、ご挨拶いただきました。 徳久学長による式辞ではまず、今回の国際シンポジウムにご列席いただいた、海外からの3名の招聘者を含めた先生方への歓迎の意が表されました。本プロジェクトの下での第二回目の国際シンポジウムが、学際的・国際的な知的交流と活発な議論の場となることへの期待が述べられました。
続いて酒井啓子・法政経学部長からは、未来型公正社会研究の法政経学部としての国際シンポジウム開催の背景と重要性が言及され、併せて同学部長が代表の科学研究費「グローバル関係学」も共催しており、活発な討議への期待の旨が述べられました。
シンポジウムの進行は以下のプログラムに沿って行われました。
はじめにシンポジウムの企画取りまとめを行った石戸光氏(千葉大学法政経学部教授)より、公正な社会のあり方の1つとして「インクルーシヴネス(inclusiveness、包括性、全員参加による社会構築)が社会的公正を具体的に実現していくために必要な考え方であることが説明されました。この概念は政治経済的・社会的な地域統合を進めるASEAN(東南アジア諸国連合)においても重要視されています。
ASEANにおいては、加盟する10カ国間には政治的・経済的・社会的な多様性が存在しており、これら諸国間および国内の市民社会との「関係性」が断絶せず平和的に構築されていなければ、現在ASEANで進行する地域統合は、(EUにおいて英国が離脱表明をしたように)瓦解する可能性を常に内包しています。このような問題意識の中で、今回のシンポジウムでは3つのセッションを行うことが述べられました。
今回のシンポジウムでは、メコン川流域6カ国が加盟する国際機関であるメコン・インスティテュートの代表、ワットチャラス・リーラワス氏より基調講演が行われました。格差なき社会発展を研究する同機関では、インクルーシヴネスを重視しており、農産物のバリューチェーン(原材料の生育から収穫、加工、流通という一連の活動のつながり)を同地域の様々な主体の参加を促していくべき点が提起されました。 社会の様々な主体が積極的に参加しながら地域経済の発展を目指すという視点は、まさに本シンポジウムの基調講演にふさわしい内容であり、多くの示唆が得られた講演となりました。
【登壇者:Ben Belton氏・Aung Hein氏】 -Aquaculture and Rural Development in Myanmar: Pathways to Inclusion and Exclusion – ベルトン氏・へイン氏の報告では、水産物の加工が小規模な生産団体にも参画可能な形でインクルーシヴネスを確保していくことの重要性が詳細な農村調査に基づいて報告されました。農村部に関する正確なデータが十分に存在しないため、まずは現状把握のための調査を自ら行っていることや水産加工業の方が農業に比べ雇用創出力が大きい点が指摘されました。
【登壇者:Kyaw Thiha氏・Kyaw Kyaw Soe氏・濵田江里子氏】-What can Japan do for Myanmar- キョティハ氏・チョウチョウソー氏・濵田氏の報告では、日本はどのような形で軍政から民主化への移行が進むミャンマーと関わることができるのかという視点からの話がされました。現在、日本に住んでいるミャンマー出身者としてキョティハ氏・チョウチョウソー氏それぞれが考えるミャンマーへの支援のあり方をお話しくださいました。今後のミャンマーにとって最も重要なことは教育を通じた人材育成であること、日本には経済的な支援だけでなく今後の国づくりを担っていく人材を育てるための支援をお願いしたいという点をお二人とも強調されていました。
【コメント・討論】 本セッションに関連して、杉本和士氏(千葉大学大学院専門法務研究科准教授)より、ミャンマーの企業のための倒産法の整備事業にJICA関連プロジェクトとして実際に携わっていることが紹介されました。その後、モーミンウー氏が討論者として登壇され、政治難民として「インクルーシヴネス」とは正反対の人生を送ったお話しをしてくださいました。
【登壇者:藤澤巌氏】 - The Use and Abuse of the “ASEAN Way”– 藤澤氏の報告では、ASEAN Wayと呼ばれるコンセンサスを重視する政策決定方式についての可能性を交えた分析が行われました。ASEAN Wayは参加国が互いに協力できれば地域内の問題解決に効果的であるので、そうした協力関係を促進するための国際的な司法整備を進めることも必要だろうという問題提起がなされました。
【登壇者:五十嵐誠一氏】 - Civil Society’s Participation in Multi-Layered and Multi-Stakeholder Regions: Toward People-Centered Development“– 五十嵐氏の報告では、市民社会の意思を政府による政策と同様に加味した多元的なASEAN大の意思決定が必要である 点が指摘されました。国家・企業中心の地域主義から、持続可能性と社会正義を重視する人々を中心とした地域主義への移行が望まれることが述べられました。
【討論・質疑応答】 2つの報告についてワットチャラス氏がコメントされ、ASEAN Wayはコンサンサスに至るまで時間がかかるが、ASEANならではの有効な意思決定方式である点が改めて強調されました。その後、質疑応答では医療分野での支援の具体的必要性などについてのやり取りがフロアの参加者と登壇者の間で活発に行われました。
今回の国際シンポジウムの開催に合わせて、本シンポジウムのオーガナイザーである石戸光教授を中心に、今回のテーマである「ASEANの統合と開発-メコン川とミャンマーから考える」に関連する研究交流と研究成果の国際発信に関する会議が開かれました。
この会議では、国内外ゲストならびに未来型公正社会研究メンバーが各自の研究内容の紹介を行い、より専門的な見地からの質問や意見交換がなされました。
今後のさらなるグローバルな研究ネットワークの形成について議論が行われ、今回のシンポジウムの成果物として英文書籍の出版、市民社会からの提案としてASEAN関連機関への提言についても検討されました。
シンポジウム終了後にはレセプションを行い、シンポジウムの登壇者、未来型公正社会研究メンバーを中心に参加者が集いました。
シンポジウム中とは異なるリラックスした雰囲気の中で議論の続きに花を咲かせる方や、海外ゲスト、日本からの参加者がそれぞれの国や文化について紹介し合う様子もみられ、和やかな交流の場を持つことができました。
来年度も下記の通り、海外より著名な研究者をお招きして、国際シンポジウムの開催を予定しております。詳細は決まり次第、改めて告知いたします。奮ってご参加ください。
2016年2月19日(金)に、千葉大学人社研棟2階マルチメディア会議室にて、未来型公正社会研究主催の国際シンポジウムを開催いたしました。
今回の国際シンポジウムは、未来型公正社会研究が今後“Chiba Studies on Global Fair Society”と題して開催する国際シンポジウムの第一回目にあたります。シンポジウムのテーマは、“International Symposium on Migration, Gender and Labour in East Asia”「東アジアにおける移民・ジェンダー・労働」であり、
基調講演をはじめ2つのセッションの下で、
海外からの招聘ゲスト4名を含む報告者ならびに討論者が登壇し、報告と質疑応答を含めすべて英語で行われました。
会場には、学内からは千葉大学徳久剛史学長、松元亮治理事、法政経学部酒井啓子学部長をはじめ、学外からの参加者を含め50名を上回る参加者が集い、
充実した学術交流の場となりました。
徳久学長による式辞では、シンポジウムにご列席いただいた招聘者の先生方への歓迎の意が表されるとともに、昨年発足した未来型公正社会研究プロジェクトの研究活動への期待と、今回の国際シンポジウムを通じた各国の研究者間での学術交流の促進に対する期待が述べられました。
徳久学長による式辞に次いで、未来型公正社会研究プロジェクトの推進責任者である法政経学部水島治郎教授より開会の挨拶が行われ、「公正」をキーワードに、社会科学のさまざまな学問分野から学際的な研究に取り組む本プロジェクトの紹介とともに、今回の国際シンポジウムのテーマである、「東アジアにおける移民・ジェンダー・労働」という
テーマのこんにちの国際社会における意義が述べられました。
シンポジウムの進行は、以下のプログラムに沿って行われました。
まず、今回のシンポジウムの基調講演を務められたRaymond K H Chan氏の報告では、香港において、女性が子育てと高齢者の介護といういわゆるダブル・ケアに直面することが二重の負担となっている状況に関する言及がなされ、こうした状況において移民家事・介護労働者を雇用することが選択肢の一つとなっていることが指摘されました。
「東アジアにおける移民・ジェンダー・労働」をテーマとする今回のシンポジウムにまさにふさわしい基調講演であるとともに、超高齢社会の下で少子化問題と女性の活躍促進を課題とする日本の現状について考えるうえでも、多くの示唆を与える講演となりました。
基調講演後のセッションは、セッション1“Global Perspectives”とセッション2“Regional
Perspectives”という二つのセッションを設けました。
「東アジアにおける移民・ジェンダー・労働」をテーマとする今回のシンポジウムにまさにふさわしい基調講演であるとともに、超高齢社会の下で少子化問題と女性の活躍促進を課題とする日本の現状について考えるうえでも、多くの示唆を与える講演となりました。
セッション1では、国立社会保障・人口問題研究所国際関係部部長、林玲子氏、ならびに九州大学大学院比較社会文化研究院准教授、小川玲子氏が報告を行い、ケアを中心とした部門における労働力移動の動向に関する考察や、東アジア地域全般におけるケア労働移民受け入れに関する分析が行われました。
林氏の報告では、日本における外国籍人口が占める割合の現状や、出入国管理政策の動向、海外との社会保障協定締結の状況について言及することで、海外と比較した際の日本の外国籍人口の相対的少なさと社会保障協定の締結状況が十分でないことが指摘されました。こんにちの日本の外国人労働者としてとりわけ需要が高まっているケア労働移民についても、EPAのあり方、外国人労働者の権利保障のあり方など、今後も環境の整備が求められることが言及されました。
小川氏の報告は、移民ケア労働者の受け入れには、ホスト国の出入国管理政策や外国人労働者の権利保障の仕組みを意味する“Migration Regime”と、ホスト国において、ケアを家族化/脱家族化しているか、専門性の高いサービスとして位置付けているか否か、といったケアの仕組みを意味する“Care Regime” の二つの分析軸によって検討することが必要であると指摘しています。
セッション2では、国立陽明大学衛生福利研究所准教授、Li-Fang Liang氏、千葉大学法政経学部教授、皆川宏之氏、千葉大学法政経学部特任研究員、日野原由未氏、千葉大学法政経学部教授、水島治郎氏が報告を行い、台湾、日本、ヨーロッパという特定の国や地域に着目した報告を行うことで、移民問題、少子高齢化をめぐるケアとジェンダーに関する議論について、東アジア地域内部での国家間比較、あるいはアジアとヨーロッパの比較という、それぞれの視座が提供されました。
Liang氏の報告では、1992年の導入以降急激に増え続ける台湾の移民ケア労働者の受け入れ政策の仕組みとその背景に関する言及が行われました。台湾では、ケア労働の担い手不足の処方箋として、住み込みの移民ケア労働者を受け入れ、家庭でのケアの維持が図られています。高齢化、女性の労働市場参入、核家族化など、日本と同様の社会状況にある台湾におけるこうした選択は、日本の現状を考えるうえで多くの示唆に富んでいます。
皆川氏の報告では、日本における正規/非正規労働の格差について、ジェンダーの視座も交えた分析が行われました。日本型雇用システムの下では,女性の就労はいわゆるM字型就労となり、非正規労働の中心を占めるパートタイム労働の多くが女性によって担われ、正規労働との間に明確な労働条件の格差が存在します。こうした正規/非正規の格差是正に対し、昨今の労働法制の整備が果たす役割についても指摘されました。
日野原・水島両氏による報告では、イギリス、オランダというヨーロッパの国における移民に光をあて、イギリスにおける技能移民の積極的な受け入れと、オランダにおける移民に対する規制の強化という、対照的な包摂と排除の現象が指摘されました。東アジアを主たる対象とした今回のシンポジウムに対して、ヨーロッパの事例を紹介することで、比較の視座を提供しました。
両セッションの終了後には、討論者からのコメントと質疑をはじめ、会場からの質疑に報告者が答える時間も設けられました。セッション1では、両報告でとりあげられたEPAについて、EPAの下での看護師資格取得の難易度の高さから、人材の確保につながるのか、といった問などが挙げられ、徳久学長からも外国人看護師の受け入れについて英語でご質問いただき、報告者との間で活発な議論が行われました。セッション2では、台湾、日本、ヨーロッパという個別の地域や国に関して、各報告内容をより掘り下げた質疑が行われました。
今回の国際シンポジウムの開催に合わせて、本シンポジウムのオーガナイザーである大石亜希子教授を中心に、今回のテーマである「東アジアにおける移民・ジェンダー・労働」と関連する研究成果の国際発信に関する会議が開かれました。
この会議では、国内外ゲストの間で今後のさらなるグローバルな研究ネットワークの形成について議論が行われるとともに、数年後に、今回のシンポジウムのテーマをより発展させた国際シンポジウムを開催することについても検討されました。
シンポジウム終了後には、けやき会館のコルザにて懇親会を行い、シンポジウムの登壇者、未来型公正社会研究メンバーを中心に参加者が集いました。
東アジア地域をテーマとした今回のシンポジウムでは、海外招聘ゲストもお越しいただいた台湾で2月6日に発生した地震の被災者の方々へのお見舞いと一日も早い被災地の復興を祈念して「2016年台湾地震救済募金箱」を設置させていただきました。皆様からお寄せいただいた募金総額は7,000円となりました。
多くの皆様からご支援・ご協力を賜りありがとうございます。皆様からお預かりした募金は、日本赤十字社を通じて2016年台湾地震救援金として寄付いたしました。
未来型公正社会研究では、2016年11月に国際シンポジウム“Chiba Studies on Global Fair Society”の第2回目の開催を予定しています。詳細については、決まり次第本ブログでお知らせいたします。