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国際公共比較

国際公共比較部門 柳澤 悠

 「新しい公共性」を規範的に研究し政策的に実現するための経験的知識を提供すると共に、福祉と環境保護という困難な両立を可能にするオルタナティブな社会モデルを提案。
趣旨
 「持続可能な福祉社会に向けた公共研究拠点」のなかにあって、世界の歴史と地域の軸に沿った公共性の国際比較研究は、「新しい公共性」を規範的に研究し政策的に実現するための手がかりとなる経験的知識を提供する。福祉の追求と環境保護という困難な両立を可能にするオルタナティヴな社会モデルの探求はその中心的な作業となるであろう。それと同時に、比較研究は規範研究・政策研究のあり方に、経験的知識にもとづいて、絶えざるフィードバックと再吟味を要請することにより、研究成果を全体としていっそう確実で十全なものにするであろう。
 
1. 「大いなる逸脱」と現代
 ところで、19世紀以降の欧米世界の興隆は、歴史家のポメランツによれば、それまで辿ってきた人類史からの「大いなる逸脱」(the great divergence)であった。石炭と新大陸の資源の利用による資源集約型経済社会は、18世紀までのヨーロッパ史の延長上に出現したものではないというのである。そこに新たに出現した経済社会は、東アジアに典型的に認められるように労働集約的で資源節約的であったそれまでの世界経済の流れを、資源集約的な経路へと転轍させたのである。石炭から石油へ、さらに原子力エネルギーへ。資源集約型経済の飽くことのない追求は、今日、グローバリゼーションが押し進める世界の収斂化のなかで、他方の極における限界的な貧困の集積やファルージャの悲劇が象徴するような戦争の悲惨へとリンクしているであろう。
 
2. 多様性の政治学、多様性の経済学
 しかし、この世界の収斂は同時に多様化の契機を含んでいるし、それはすでに顕在化している。「逸脱」以前の歴史は、旧世界のあちこちで様々な社会的・経済的制度へと結晶化して機能し続けているし、収斂化の圧力に耐えて、或いはそれを柔軟に消化しながら進化している。江戸時代に機能していた鳥獣保護政策や「生類憐れみの令」が、今日、環境の視点から再評価されているように、「逸脱」以前の歴史が見直されている。ドイツにおける原子力エネルギーの段階的廃絶の合意は、近代よりも遙か以前に根をもつヨーロッパ市民社会のなかの人々の結びつきとその政治参加の伝統なくしては実現しなかった。このように市民社会は近代に固有のものでも、また欧米だけのものでもなく、アジアや中東など非欧米世界でも多様な発展を遂げて今日に至っている。経済史の碩学ガーシェンクロンは経済発展の多様性を論じたが、共生の歴史学的知見をふまえた多様性の政治学、多様性の経済学は今日新たに渇望されているであろう。われわれの研究拠点が目指すのは、そのような渇望に応える逞しい拠点へと成長することである。
 
3. グローバル化・情報化と労働の未来
 労働や雇用は今日、産業のグローバル化と情報化のなかで大きな曲がり角にさしかかっている。人々の労働観は揺らぎ、企業や自治体組織のスリム化に伴って、基幹的労働の高度な専門化が進行する一方で、NPO 活動や「市民労働」(Buergerarbeit)などと呼ばれる新しい労働のあり方が台頭してきた。伝統的な「収入を得るための労働」(Erwerbsarbeit)はどうなっていくのであろうか。「労働の未来」をわれわれはどのように描けるのであろうか。国際比較研究は公共研究のこの枢要な課題に対して有益な視点と知見をもたらすことができるであろう。
 
4. 歴史的パースペクティヴのなかの「公益」
 さて、公共研究において「公益」論は核心的テーマの一つであろう。「公益は私益に優先する」との命題は、ナチズムの歴史を少しでも囓ったものなら誰でも知っている。独占によって均衡が失われた市場を前にして人為的均衡論を発展させたのはナチスの時代のエコノミストであった。今日、「公共の福祉」は憲法改正を含めて様々な政治的文脈で論じられている。公共性の規範的研究は国際比較の視座を導入することによって十全な方向感覚を培うことができるようになるであろう。
 
5. 長期化するデフレ経済と「新しい公共性」の探求
 デフレ経済が長期化するなかで、ケインズ主義=社会(民主)主義=近代=成長、または反ケインズ主義=反社会(民主)主義=近代への懐疑=反成長のような、一見「わかりやすい」図式が常識のなかに忍び込んできている。しかし図式は事実に基づいて修正したり、いっそう多様化させうるし、そうすべきであろう。その際には国際比較の方法が威力を発揮するであろう。グローバリゼーションの圧力のなかで福祉と環境の困難な課
「国際比較研究」事業推進メンバーのご紹介
柳澤 悠
 
人文社会科学研究科(公共研究専攻)教授
アジア経済論
国際公共比較担当サブリーダー(アジアの環境変動と村落社会の変容の分析)
秋元 英一
 
人文社会科学研究科(公共研究専攻)教授
アメリカ経済史
国際公共比較担当(アメリカ福祉社会の分析)
古内 博行
 
人文社会科学研究科(公共研究専攻)教授
ドイツ経済史・EU経済
国際公共比較担当(西ドイツ経済史にみる社会国家の分析)
大峰 真理
 
人文社会科学研究科(公共研究専攻)准教授<
フランス近世史
国際公共比較研究担当(カトリック信徒共同体の分析)
小澤 弘明
 
人文社会科学研究科(公共研究専攻)教授
ヨーロッパ史・オーストリア史
国際公共比較研究担当国際公共比較担当(オーストリアにみる社会国家の検討)
安孫子 誠男
 
人文社会科学研究科(公共研究専攻)教授
比較経済制度論・社会経済学
国際公共比較研究担当(<労働−福祉ネクサス>の比較制度論/:「労働−福祉ネクサス」研究プロジェクト主担当)


 
     
      千葉大学大学院 人文社会科学研究科 公共研究センター
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